マッサージの効果を研究する上での最大の問題はプラシーボ効果を制御できないという点です。カナダのスポーツマッサージ療法士協会の元会長は「マッサージは二重盲検法で実験できない分野です」と認めています。ですから、2008年のポーランドのポズナン医科大学による研究の結果に似た話はいくらでもあります。この研究では、被験者に両腕を使って難しい運動をさせ、片腕だけをマッサージして、その後4日間の回復具合を評価しました。その結果、被験者はマッサージを受けたほうの腕が楽になったと報告しました。ただし、腫れや可動域など測定できる指標ではマッサージの有無による違いは見られませんでした。
現在のところ、マッサージの研究のほとんどはこれと同じようなもので、事例証拠は多くあるものの、確たる事実に欠ける状態です。とはいえ、ここ数年間ではプラシーボ効果の問題を回避して過去の通説を覆す研究がいくつか出てきました。長い間、トレーニング後の筋肉痛は乳酸の蓄積により生じ、マッサージには溜まった乳酸を押し流す効果があると考えられてきました。しかし現在、この説は大いに疑問視されています。2010年のクイーンズ大学の研究では、運動後のマッサージは乳酸の排出を促すどころか、排出を遅らせることが明らかになっています。主任研究員のマイケル・チャコフスキーは、マッサージの手の動きで組織が圧迫され、その結果、血管も一緒に押されるので血液が流れにくくなるためだと考えています。
オハイオ州立大学ではプラシーボ効果の影響を避けるために、ウサギを使ってマッサージの仕組みを研究しました。まず、鎮静状態のウサギに足の筋肉の収縮を引き起こす神経刺激を与え、運動をさせました。次にスウェーデン式マッサージ(代表的なスポーツマッサージ)を真似た「円を描くような圧迫を加える」機械を運動後のウサギに1日に30分間使用しました。結果は明白でした。運動の4日後の測定では、マッサージを受けたウサギは失われた筋力が59パーセント回復したのに対し、安静にしていたウサギでは14パーセントしか回復しなかったのです。マッサージを受けた筋肉では損傷した繊維が少なく、また、マッサージを受けたウサギは体重が減っていました。これは、マッサージにより腫れが防止されたためと考えられます。興味深いことに、運動の1日後にマッサージを施した場合には、これほど明白な結果は出ませんでした。つまり、マッサージは早期に受けるほど効果があるということです。研究主任の卜―マス・ベストは、ウサギの結果を人間にそのまま当てはめて考えることはできないと忠告しています。とはいえ、こうした研究結果はマッサージの継続時間や頻度や力加減を解明する助けになるはずです。現在のところ、適切な力加減は感覚によって決まりますが、頻度と継続時聞は「懐具合」との兼ね合いになりそうです。スポーツマッサージの専門知識がある腕利きの療法士を見つけることが何よりも大事といえそうです。
【まとめ】
マッサージに乳酸を押し流す効果はないが、筋肉痛の回復を早める可能性がある。
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参照:WHICH COMES FIRST. CARDIO OR WEIGHTS?
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