20年前なら、こんな疑問を持つ人はほとんどいなかったでしょう。しかし現在、地道な研究によって長年信じられていた仮説が覆され、ストレッチと柔軟性、ケガ、パフォーマンスとの関連性についての科学的な見解は大きく変化しています。従来おこなわれてきた運動前の「静的」なストレッチは役に立たないばかりか、筋力、スピード、持久力を低下させることが明らかになっています。最新の研究は、効果的なウォーミングアップ方法として「動的」なストレッチを推奨しています。従来のストレッチ以外にも、ヨガやピラティスなどの運動によって、柔軟性を高め、体幹を鍛える人が増えています。これらの運動はまだ研究されはじめたばかりですが、その効果が徐々に明らかになりつつあります。スポーツ科学者とアスリートで大きく意見が異なるのがストレッチです。初心者からプロ選手まで、レベルを問わず誰もがストレッチをしますが、その裏では「ストレッチをしてもケガや筋肉痛の予防にはならず、時にはパフォーマンスが緩慢になる」という研究結果が続々と発表されています。
カルガリーでアイスホッケーについての研究をおこなっているマイク・ブラコは選手たちが「ハムストリング(太股の裏側の筋)と鼠径部のストレッチに異常にこだわっている」ケースを挙げています。ストレッチは試合前の儀式のようになっているため、選手とっては研究から得られたデータなどどうでもいいのです。答えの出ない疑問も残っています。ストレッチの方法も目的も、人によって違うからです。そこで、まずストレッチがケガを予防するのかどうかを検証し、次に運動前のストレッチが最高のパフォーマンスを引き出すのかどうか、さらに運動後のストレッチが筋肉痛の回復(予防)に役立つのかどうかを確認することにします。誰でも身体がこわばると筋肉を伸ばそうとします(つまりストレッチをします)。もっとも一般的なのは「静的」ストレッチで、身体の部位をできるかぎり伸ばし、その姿勢を30秒ほど維持します。身体の可動域が広がり、その状態を持続します。しかし、柔軟性が高いほうがケガをしにくいという説にはいくつかの矛盾があります。筋肉が損傷するのは、身体を可動域内で動かしながら大きな負荷をかけて筋肉を収縮させているときです。バレリーナやアイスホッケーのゴールキーパーでなければ、通常の可動域を超えて開脚しようとすることはありません。マギル大学のスポーツドクター、イアン・シュリアは次のように主張しています。「ケガは、身体を可動域内で動かしている際に生じます。なぜ、可動域を広げることがケガの予防につながるのでしょうか?」(『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディスン』で2000年に大きく取り上げられた論文)この問題を解明するために何百もの研究がおこなわれています。疾病管理予防センターは2004年に361の研究を検証し、「ストレッチがすべてのケガの軽減に関係するわけではない」という結論を導きました。さらに同センターは、「運動によるケガを防止するためにストレッチがおこなわれていますが、科学的な根拠はなく、直感や、なんとなくそうしたほうがいいといった研究結果がもとになっている」と述べています。同様の調査は2008年にも実施されましたが、結論は同じでした。
ここで注意すべきなのは、ストレッチの効果が証明できないからといって、ストレッチに効果がないと断定することはできないという点です。ストレッチプログラムを組むときは、個人のニーズや運動に合わせてアレンジする必要があります。ですからストレッチプログラムを総体的に研究しても陵味な結果しか得られないのです。ブラコが述べているアイスホッケーの選手のように、日頃実践しているストレッチに深い愛着を感じているのであれば、それをやめさせる十分な根拠はありません。ただし、ストレッチをするタイミングとその方法については慎重に考えなければならない理由がいくつもあるということなのです。
【まとめ】
ストレッチで身体の可動域は広がるが、ケガの発生率を低下させる効果は科学的には確認されていない。柔軟性を高める効果は、運動前ではなく運動後のストレッチのほうが高い。
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参照:WHICH COMES FIRST. CARDIO OR WEIGHTS?
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