2010年、ブリガムヤング大学が奇妙な研究結果を報告しました。60ミリリットルのピクルスジュースを飲むと、筋肉の痙攣が45パーセント早く、平均で約85秒以内に収まる効果があるというのです。
すぐに収まるというわけではない点が面白いところですが、気になるのはそのメカニズムです。長い問、痙攣の原因は汗によって脱水状態になったり、塩分とともに電解質が失われることによるものだとされてきました。しかし、ごく少量のピクルスジュースは全身に水分を補給したり、電解質レベルを正常にするためには不十分です。そもそもジュースが小腸によって吸収されるよりも前に、痙攣を低減する効果は生じているのです。最近、痩撃は疲労、筋損傷、遺伝などのいくつかの要因から生じる「神経筋制御の変化」と関係する現象であるという仮説に注目が集まっています。新しい理論は、痙攣を迅速に抑える方法は提供しないものの、適切なトレーニングとぺースを維持することで発生率を抑えられることを示唆しています。
痙攣については1世紀以上も前に、高温で湿度の高い環境下に置かれている鉱夫や汽船労働者を対象にした研究がおこなわれました。これらの観察結果から、汗で失われた水分と塩分を補給することで痙攣を抑えられるという説が普及しましたが、その効果を実際に証明した比較対照実験はこれまでにありません。トライアスロンの選手を対象にしたケープタウン大学の研究でも、痙攣しがちな選手とそうでない選手の水分と電解質のレベルが、レース前後でほとんど違いがないことが明らかになっています。ブリガムヤング大学の別の研究では、被験者に運動によって体重の3パーセントに相当する汗をかかせたところ、電気刺激による痙攣の発生には違いがありませんでした。神経筋が痙攣の原因だとする理論は、1997年にケープタウン大学の運動生理学者マーティン・シュルナスによって、初めて提案されました。それは、痙攣するのはもっとも激しく使用されている筋肉であることが多いというような、単純な観察結果に基づくものでした。シュルナスは「もしそれが脱水症のような全身性の問題ならば、なぜ全身が痙攣を起こさないのか?」と疑問を呈しています。さらに、運動競技の会場で手当をおこなっているスポーツ医は、痙攣を和らげる最良の方法は、患部を伸ばすことであると知っています。これも、痙攣が全身性ではなく局所性の問題であることを示すヒントになっています。筋肉は神経系によって運ばれる2種類の反射信号のバランスをデリケートに保っています。収縮を誘発する興奮性入力と、弛緩を誘発する抑制性入力です。シュルナスは、運動に関連するいくつかの要因が興奮性入力を増やし、抑制性入力を減らすことで、このバランスが崩されると考えています。これが起きると筋肉は過敏になり、このアンバランスが続くと、筋肉は痙攣するというのです。
このバランスに影響を与えて筋肉を過敏にさせる要因には疲労や筋繊維の破損があり、もっとも酷使している筋肉で痙攣が生じやすいことの説明にもなります。マワス実験では、ピクルスジュースに含まれる酢が、これらの反射信号を変えうることが示唆されています。また、痙攣が遺伝と関係があることを示唆する研究結果もあります。逆に、筋肉を伸ばすことは抑制性の反射を誘発し、多少の痛みはともなうものの、痙攣を終わらせるための効果的な方法だと考えられます。
興味深いことにトライアスリートを対象にしたシュルナスの研究では、痙攣を起こした人は起こさなかった人よりも、レース前に高い目標を設定し、自己ベストに対して相対的に速いペースでレースを進めていたことが明らかになっています。同じくシュルナスの研究(正式には現時点では未発表)は痙攣を起こした人がレース直前の週にハードな練習をおこない、筋肉損傷と関係する酵素の血中濃度を高めていた傾向があることに気づきました。十分にトレーニングし、現実的なゴールを設定し、レース前にしっかりと休養をとることで痙攣を完全に防ぐことはできないにしても、その発生のリスクを減らせます。ただし、まだ科学は痙攣のメカニズムを完全には解明できていません。電解質に富んだバナナを運動の前に食べることが痙攣の防止に効果があると感じているのなら、それを続けてもよいでしょう。まだピクルスジュースを飲んだことがない人は、一度試してみてもよいかもしれませんね。
【まとめ】
痙攣は従来、発汗による電解質の損失が原因だと考えられていたが、最近の研究は、筋肉の疲労に関連する神経の反射作用のバランスが失われることが原因であることを示唆している。
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参照:WHICH COMES FIRST. CARDIO OR WEIGHTS?
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